お寺の奥さん

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仏教

令和3年8月27日

 

皆様は〝お寺の奥さん〟を何と呼ぶのか、ご存知でしょうか。近年では「寺庭婦人じていふじん」などという洒落しゃれた呼び方がありますが、これは必ずしも住職の奥様個人を指すとはかぎりません。つまり、お寺で働く老若の女性を総称し、その中でも特に住職夫人を代表しての呼称なのです。

また、特殊な呼び方として、そのお名前の後に「〇〇〇〇刀自とじ」などと尊称する場合があります。「とうじ」ではなく、「とじ」と読みます。ちょっと違和感があると思いますが、これも住職夫人にのみ使われるのではなく、特に年輩女性に敬意を表しての尊称です。〈戸主とぬし〉の略語とも言われますが、要するにかたな、すなわち包丁ほうちょうをつかさどる人の意味から、家事を引き受ける貴婦人という意味に転じました。

では、昔から住職夫人を一般には何と呼んできたかというと、「お大黒さん」がその代表です。お大黒さんはもちろん、七福神の中のあの大黒天のことで、いつも大きな袋を背負ってにこやかに笑い、いかにも福を呼ぶ面相をしています。大黒天は台所の神さまであり、食物と財福の神さまですから、なるほどと思えるはずです。住職の食事を調え、身のまわりを世話するわけですから、「お大黒さん」はふさわしい呼称でしょう。

私は住職の品格も地位も収入も、福の神さまである「お大黒さん」次第であるとさえ思っています。やはり内助の功なくして、お寺は発展しませんし、お檀家やご信徒からの人気も高まりません。その証拠に、ずいぶん流行はやっているなと思う寺は、決まって「お大黒さん」が明るくて愛嬌あいきょうがあり、世話好きで親切です。間違いはありません。これから住職になる若い僧侶は、何としてでも「お大黒さん」にふさわしい女性を射止いとめることです。

ちなみに、豊臣秀吉が天下人になり得たのは、日本一の良妻とされる寧々ねね三面さんめん大黒天(大黒天・弁財天・毘沙門天が合体した尊像)との出会いがあったからだという説があります。京都東山の高台寺圓徳院えんとくいんにはその三面大黒天が祀られていますので、新型コロナが落ち着きましたらお参りするとよいでしょう。

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