続続・怖いお話

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令和4年7月27日

 

ご要望にお応えして、もうひとつ。これは昨年のお話です。

たしか、5月頃だったと思います。私はある日、大阪市在住のS氏という方から、突然の電話をいただきました。まったく初めての方でした。S氏はまず、「あなた様なら私のお話を聞いていただけると思って、お電話をしました」と切り出すや、ご自分の不思議な体験を語り出しました。

聞けば、S氏すでに会社役員を退職し、奥様とともに諏訪湖温泉の〈〇〇〇ホテル〉に行くことを、毎年の楽しみにしているとのことでした。そして、昨年も恒例にたがわず、そのホテルに宿泊をして来たと言いました。S氏は温泉の湯船につかり、指定しているいつもの客室で奥様と料理の席に着きました。すると毎年のごとく、顔見知りの女将おかみさんが、「失礼いたします」と、挨拶に見えたのでした。その女将さんとは何度もお会いしていましたので、その姿も声も間違いありませんでした。

女将さんとはお話がきょうじ、ついつい30分以上が過ぎ去りました。普通、こうした挨拶がこれほど長く続くことはありません。S氏はいささか気になり、「女将さん、僕のところはもういいから、ほかのお客さんにも挨拶をしてください」と言いました。ところが女将さんは、「それはお気になさらないでください。ここにいる方が楽しいのですから」と言うのでした。S氏は妙なことを言うなと思いましたが、その理由までは問いませんでした。

どれほどの時間が過ぎたでしょうか。「長い時間をおつき合いいただき、ありがとうございました」と、女将さんはやっとS氏の客室から出て行きました。ところが、間もなくのことでした。今度は顔見知りのその女将さんよりも若い、別の女性が現われて、「女将でございます」と言うではありませんか。S氏が「女将さんなら、今までここにいましたよ」と言うと、その若い女将さんは怪訝けげんな顔をあらわにしました。そして、ことの次第を語るや、「その方なら、もうここにはおりません。今は私が女将ですから」と言います。何という奇怪な出来事でしょう。S氏は真っ青になり、もう料理どころではありません。地酒の酔いもいっぺんに吹き飛んでしまいました。

皆様はいったい、このお話が信じられるでしょうか。実はこれには後日談があり、諏訪市在住の私の弟子僧M師が、先に挨拶に来たその女将さんのことをよく知っていました。事情があって、実家に帰っているとのことでした。したがって、そのホテルの女将として挨拶をすることは絶対にあり得ません。つまり、これは亡くなった人の霊ではなく、〈生霊いきりょう遊離ゆうり〉だったのです。毎年の常客であったS氏のことを忘れなかった想念が脱魂だっこんして、本人さながらに別の場所に移動した現象です。信じがたいことではありますが、絶対にあり得ないとは言い切れません。ほかにも耳にした経験があります。

怖いお話はまだまだありますが、もう、このへんにいたしましょう。今夜の「真夏の夜の夢」をお楽しみに。

山路天酬密教私塾

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