令和8年5月21日
孔雀明王に続いて、摩利支天(写真は大正蔵図像の一図。このほかイノシシに乗る猪突猛進の姿もあります)の伝授をいたしました。摩利支天は陽炎の神格とされ、その実体がなく、姿を見られず、傷つけられぬことから「隠形の神」や「戦場の守護神」とされています。
したがって、戦国時代から江戸時代にかけては楠木正成や徳川家康など、名だたる武将から絶大な信仰を集めたことは言うまでもありません。経典にも、髷や兜に摩利支天像を入れると強いご守護を得ることが明記され、実行していた武将もおります。

この摩利支天が持っている団扇には卍と日輪が描かれ、仏(大日如来)の化身として勝敗の判定をします。相撲の行司が持っている軍配も同じ意味です。いわゆる制限時間いっぱいになると「軍配を返して」勝負を判定するということです。摩利支天が相撲の中に息づいている事実は、いかに根強い信仰があったかの証明でしょう。
ちなみに、私は子供の頃から、相撲の行司が観客に向かって何を言っているのか、とても気になっていました。「かたや」は「片方は」、「こなた」は「こちらは」です。「はっけようい」は「発気揚々」または「発気用意」です。「気合を入れて全力で勝負せよ」という意味でありましょう。
ところが、結びの一番の立行司の口上が、長い間わかりませんでした。2001年に刊行された齋藤孝氏の『声に出して読みたい日本語』(草思社)を手にして、初めて知ったのです。すなわち、「番数も取り進みましたるところ、かたや〇〇の山、〇〇の山。こなた△△の海、△△の海。この相撲一番にて、本日の打ち止め~」となり、15日目の結びの一番のみ「千秋楽にございます」と、丹田からしぼり出すように唱えるのです。行司もまた、全身全霊で発気します。
相撲は日本の国技であり、これを放送するNHKはこうした伝統ある日本語を、わかりやすく国民に伝える義務があります。このほか行司の修練や呼び出しの日常、番付を書く勘亭流書体の筆技など、番組の間に紹介すれば、視聴率はさらに上がりましょう。明らかな怠慢です。皆様はどのように思われましょうか。
摩利支天のお話が、あらぬ脱線をしてしまいました。お許しを。

