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思い出の料理人

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令和2年2月27日

 

越後えちごの良寛さまは、きらいなものが三つあるとして、「歌よみの歌、料理人の料理、書家の書」をあげています。これは要するに、技術ばかりが目立ったプロのものより、素人しろうとが持つ素朴そぼくな境地のすばらしさをたたえたもので、独特の人生観を述べたものです。もちろん、プロの技術をまったく否定しているとも思えません。

たしかに、良寛さまの歌や書は、歌人や書家ものとは違った格別な味があります。特に書は、本場の中国書道史には類例のない素人くさいものです。しかし、書家にはないその味わいは、日本書道史に異彩を放っています。私も長岡市島崎の木村邸(良寛さま終焉しゅうえんの地)でその真筆に触れ、打ちふるえるような感動を覚えた経験があります。

このような思案や経験を重ねたせいなのか、私は家庭的な料理が好きで、今ではほとんど外食すらしません。自分が作ったもので、まずまず満足しています。

しかし、そんな私にも忘れられない料理人がおり、思い出してはその味を追想しています。その料理人とは京都大徳寺門前の紫野和久傳むらさきのわくでんにいた中村茂雄氏のことで、まだ若い方ではありましたが、彼の典座てんぞ料理(精進料理)は廉価れんかでありながらまさに絶品でした。自ら山野を歩いては食材を求め、その盛りつけも簡素を極めました。京都の懐石料理は花や紅葉を添え、美しく飾ります。しかし、中村氏は厳選した食器にだだ料理そのものを盛るばかりで、つまり野球にたとえるなら常に直球勝負でした。京都の水と昆布との相性の良さも、私は中村氏の料理から知りました。

その中村氏が昨年七月、突然の病気で帰らぬ人となったことを奥様より知らされました。二年前、高台寺に自分のお店を持ち、これからという時であったことが悔やまれてなりません。寺で回向を重ね、冥福をお祈りしています。私にとって、唯一の「思い出の料理人」でした。

蕎麦を楽しむ

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令和2年2月21日

 

今日は寺に集まった方々と、蕎麦そばを食べました。

私の郷里(栃木県の農村)ではワサビがありません。そこで、きのこ汁やけんちん汁で食べたものでした。いま私たちが食べている蕎麦は、江戸時代には「蕎麦切そばきり」と呼ばれ、異説もありますが木曽の本山宿もとやまじゅくが発祥地とされています。友人の寺が本山宿に近く、案内していただいたことがあります。つまり、それまでの蕎麦は「蕎麦がき」で食べていたのです。また、僧侶が山に入る時、蕎麦粉そばこを持参して、それを水で溶いて常食していました。

私は子供の頃からの味なので、いつもキノコ汁で食べています。料理は職人くささがなく、素人風しろうとふうであることが大切です。プロの味は、時おり外食で楽しむ方がよいでしょう。今日も私が素人風に作りました。

ところで、食事はむ音や食器の音を立てないのがマナーでありながら、蕎麦ばかりはズルズルッと音を立ててよいことになっています。皆様はこの理由がわかりますでしょうか。

実は、蕎麦の醍醐だいごみ味はかおりとのどごしにあるからなのです。まず、最初はつゆを付けずにゆっくりと香りを楽しんで食べます。それから、三分の一ほどをつゆに付けて、ズルズルッと一気に喉ごしを味わいます。蕎麦はうどんほど太くはなく、中華めんのようにちぢれてもいません。だから、音を立てて素早すばやく口に入れないと、つゆの味が台なしになるのです。また、素早く口に入れることで空気も口の中に入り、それが鼻にぬける時に蕎麦の香りが味わえるという理由もあります。

さて、今日は出来あがった蕎麦を写真に撮り、このブログを書く予定でした。ところが、何と、あまりのおいしさに、写真のことなどすっかり忘れて〝一気に〟食べてしまいました。写真のことを思い出したのは、すでに全部を平らげた後のことでした(写真)。

ご覧のとおり、もはやキノコ汁すら残っていません。この食卓のまわりに、私の蕎麦にありついた大食漢たいしょくかんたちが笑っています。大変に、大変に失礼しました。次回は、私の蕎麦をしっかりと写真に撮りますからね。ゴメンナサイ。

小食のすすめ

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令和2年1月27日

 

健康のためには大食は禁物です。特に頭脳思考の仕事には、小食が大切です。そのことを昨日のブログに書きましたが、さらに学説を加えてお話しましょう。

まず、アメリカ・エール大学のトーマス・ホーバス博士はお腹がすいている時こそ、胃が分泌する飢餓きがホルモンのグレリンが脳の働きを促進すると発表しています。またスペインの養老院で、1800キロカロリーの食事を毎日与えたグループと、一日おきに断食させたグループを比べてみたところ、後者の方が圧倒的に長命であったと発表しました。

こうした事実は動物実験でも明らかです。同じアメリカ・ウィンスコンシン大学のリチャード・ワインドルック教授と国立老化研究所のフェリペ・シェラ博士らはアカゲザル76匹を、何と20年間にわたって食事カロリーの追跡調査をしました。その結果、低カロリー食を与えた群れは心臓疾患が少なく、脳も健康で糖尿病もなかったと発表しています。また、カリフォルニア大学のマーク・ヘラースタイン博士らは、ネズミの摂取カロリーを5パーセント減らすだけで、大幅に寿命が延びることも証明しました。カロリーを制限すると、細胞分裂が遅くなるので、がんの増殖ぞうしょくも抑えられるというのです。

皆様はこの逆説を、どのように解釈しますでしょうか。まさに、小食こそは寿命を延ばし、病気を予防し、頭脳を明晰めいせきにしてボケを防ぐのです。

さらに断食まですると、その効果はてきめんです。断食を取り入れた病院や健康施設で肌が若くなり、色つやもよくなり、難病を克服した例は数知れません。私も若い頃に八千枚護摩はっせんまいごま(断食を加えた荒行)に明け暮れましたので、その効果がよく理解できます。体が軽くなり、頭脳も感覚もえました。お寺の一階にいても、三階でどんな料理を作っているかさえわかりました。

どうか皆様、飽食の時代であればこそ、小食の効能を見直してください。もしかしたら、人が一生に食べる量は決まっているのかも知れません。その量を食べ尽くせば、もはや生きる寿命も尽きるのです。きっと、そうです。

続・なべ料理

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令和元年10月6日

 

なべ料理の一つに〈ちゃんこ鍋〉があります。実は、お相撲すもうさんのちゃんこ鍋のことで、なつかしい思い出があります。

私が四十代の頃、今は解散した押尾川部屋おしおがわべや(東京・江東区)を何度も訪ね、よくちゃんこ鍋をご馳走ちそうになりました。相撲界きっての歌の名手である大至だいしぜきと親しかったからです。お相撲さんたちは朝稽古あさげいこの後、朝食と昼食をねてちゃんこ鍋を食べます。押尾川部屋のちゃんこ鍋はなかなかの評判で、そのレシピが本になって出版されたほどでした。

そもそもお相撲さんがなぜちゃんこ鍋を食べるのかといいますと、一度に大量の調理が可能なこと、肉や魚のほかに野菜も多くとれること、加熱しているので食中毒の心配がないこと、後の洗い物が少ないことなどがその理由です。しかし何よりも、親方と一緒いっしょに同じ鍋を食べることで、部屋の中に一体感が生まれるからなのです。そもそも「ちゃんこ」という呼び名は、親方という父(ちゃん)と弟子という子供(こ)を合わせた用語なのです。

ちゃんこ鍋をつくるのは、〈ちゃんこ番〉という入門したてのお相撲さんです。彼らは先輩たちが食べる後ろに立って、お代わりを給仕します。ご飯やもちの量も半端ではありません。でも、ちゃんこ鍋を食べるからお相撲さんの筋肉がつくられるのです。お相撲さんの体は、内側が筋肉で外側が脂肪です。それでも、体脂肪率は10パーセントに過ぎません。あのような巨体でも体が柔らかく、100メートルを12秒台で走れます。土俵から落ちても、めったにケガをしません。これがちゃんこ鍋のすごいところです。

だから、ちゃんこ鍋をしっかり食べないと、お相撲さんの体にはなれません。また、ちゃんこ鍋に慣れない外国からの門人には、ケチャップやキムチを加えて、無理にでも食べさせます。

なべ料理に対する私のこだわりは、こんな思い出から定着しました。朝稽古の後にご馳走になった押尾川部屋のちゃんこ鍋を、忘れることはありません。

なべ料理

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令和元年10月6日

 

なべ料理ほど、身も心も温まる料理はありません。まだ暑さは残るものの、そろそろと思って〈ほうとうなべ〉から始めました(写真)。

私は今、ほとんど外食をしません。その理由は、近所においしいと思う店が少ないこともありますが、油が信用できないからです。油の実態について、ここで詳細はお話しませんが、皆様もお調べになればスグにわかることです。今や、大人も子供もアレルギー症状(花粉症・アトピー等)に悩まされていますが、その原因の多くは油から来ています。でも、このお話はやめておきましょう。

さて、ほうとう鍋ですが、うどんと違ってなまのまま入れるのが特徴です。主にみそ味としょうゆ味ですが、それはお好みです。それから、冷蔵庫にある野菜やキノコをたくさん入れれば出来あがりです。私はニンジンを花型で抜いたり、った切り方はしません。少し素人しろうとくさいぐらいがいいと思っています。これをみんなで囲めば、愛情も友情も深まること、比類がありません。

生きるということは食べることです。睡眠も運動も大切ですが、まずは食べることが第一です。仲良くなりたかったら、よけいな講釈などいりません。いっしょに食事をすることで、その根底が開かれるのです。それには、安くて簡単で、みんなで楽しめるなべ料理こそイチ押しです。

これからは魚がおいしくなりますし、野菜もいちだんと味を増します。また、豆腐とうふもたいていのなべ料理に合います。これほど栄養バランスのよい料理はありません。たとえ簡素でも、時には豪華でも、それぞれみごとに味が決まります。素材が生き生きとえ立ち、自然の風味がおなかに伝わります。

皆様、家族とも友人とも仲よくなりたかったら、なべ料理を囲んでください。「神さま、仏さま、お鍋さま」ですよ。

山路天酬密教私塾

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