続・なべ料理

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食事

令和元年10月6日

 

なべ料理の一つに〈ちゃんこ鍋〉があります。実は、お相撲すもうさんのちゃんこ鍋のことで、なつかしい思い出があります。

私が四十代の頃、今は解散した押尾川部屋おしおがわべや(東京・江東区)を何度も訪ね、よくちゃんこ鍋をご馳走ちそうになりました。相撲界きっての歌の名手である大至だいしぜきと親しかったからです。お相撲さんたちは朝稽古あさげいこの後、朝食と昼食をねてちゃんこ鍋を食べます。押尾川部屋のちゃんこ鍋はなかなかの評判で、そのレシピが本になって出版されたほどでした。

そもそもお相撲さんがなぜちゃんこ鍋を食べるのかといいますと、一度に大量の調理が可能なこと、肉や魚のほかに野菜も多くとれること、加熱しているので食中毒の心配がないこと、後の洗い物が少ないことなどがその理由です。しかし何よりも、親方と一緒いっしょに同じ鍋を食べることで、部屋の中に一体感が生まれるからなのです。そもそも「ちゃんこ」という呼び名は、親方という父(ちゃん)と弟子という子供(こ)を合わせた用語なのです。

ちゃんこ鍋をつくるのは、〈ちゃんこ番〉という入門したてのお相撲さんです。彼らは先輩たちが食べる後ろに立って、お代わりを給仕します。ご飯やもちの量も半端ではありません。でも、ちゃんこ鍋を食べるからお相撲さんの筋肉がつくられるのです。お相撲さんの体は、内側が筋肉で外側が脂肪です。それでも、体脂肪率は10パーセントに過ぎません。あのような巨体でも体が柔らかく、100メートルを12秒台で走れます。土俵から落ちても、めったにケガをしません。これがちゃんこ鍋のすごいところです。

だから、ちゃんこ鍋をしっかり食べないと、お相撲さんの体にはなれません。また、ちゃんこ鍋に慣れない外国からの門人には、ケチャップやキムチを加えて、無理にでも食べさせます。

なべ料理に対する私のこだわりは、こんな思い出から定着しました。朝稽古の後にご馳走になった押尾川部屋のちゃんこ鍋を、忘れることはありません。

山路天酬密教私塾

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