音声菩薩拓影

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あさか大師

令和3年11月18日

 

あさか大師本堂の片隅に、小さな床の間があります。今年は奈良岡寺おかでらの〈天人塼てんにんせん拓影たくえい〉を飾っていましたが、今日、東大寺の〈音声菩薩おんじょうぼさつ拓影〉に変えました(写真)。皆様が東大寺の大仏殿に拝観すれば、その正面の巨大な八角灯籠どうろうが目につくと思います。その扉にはゆかしい音声菩薩が羽目板はめいたとなって浮き彫りされています。これは現存する最古の八角灯籠で、まさに創建時(天平時代)のままに残された貴重な文化財です。東大寺はこれまで二度の火災に見舞われ、大仏さえも創建時のお姿はありません。しかし、この八角灯籠だけはその災難をくぐりぬけ、天平美術の逸品となって残りました。これはその中の、銅鈸子どうはっしかなでるお姿です。

実は、この銅鈸子の音声菩薩は、昭和37年に盗難にいました。無残な姿で発見されましたが、その後は博物館に所蔵され、現在の八角灯籠には複製品(ほかの音声菩薩とは少し色が違っています)が飾られています。右上の網目が欠けているのはそのためですが、それだけに貴重な拓影といえましょう。

現代人は漢詩や和歌の筆跡ひっせきは読めません。それが、私が拓影にこだわる理由の一つです。また、現品では見えにくい細部の文様まで、みごとによみがえります。さらに申し上げれば、この時代の美術品など、私たちは手にすることはできませんが、拓影ならそれが叶うのです(今どきはレプリカの拓影が出回っていますので、ご用心を)。

お大師さまも東大寺には法縁が深く、山内に真言院を建立し、経典の講伝もされました。あさか大師の本堂に、天平の奏でを捧げたいと思っています。

山路天酬密教私塾

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