令和2年3月26日
昭和39年のこと、美空ひばりさんが唄った『柔』という曲が大ヒットしました。発売からわずか半年で、シングル180万枚以上という記録的な売り上げだったそうです。ひばりさんはこの年の「第15回NHK紅白歌合戦」、そして翌年の「第16回NHK紅白歌合戦」では二度ともこの曲でトリをつとめ、しかも「第7回日本レコード大賞」にも輝きました。昭和39年はいわゆる「第18回東京オリンピック」が開催され、柔道が初めて正式種目に選ばれたという背景もありましたが、日本中に〝柔ブーム〟を巻き起こしたことも事実でした。
「勝つと思うな、思えば負けよ」という歌詞の冒頭を覚えていらっしゃる方も多いことでしょう。しかし、この冒頭が吉田兼好の『徒然草』(鎌倉時代の随筆)に由来することをご存知の方は少ないはずです。その第百十段に、「勝たんと打つべからず。負けじと打つべきなり」という名言があります。これは双六の名人に勝つ手立てを聞いたところ、「勝とうと思って打ってはいけない。負けまいと思って打つべきである」と答えたという逸話を語ったものです。。
勝負ごとというものは、常に勝ち続けられるものではありません。また、勝ち過ぎた人は、必ずある時になると大負けしたり、負け続けるものです。途中まで優勢であっても、逆転負けということもあります。それに勝つことばかり意識する人は、負けると途端に気力が衰えてしまうものです。だから、負けまいという意識を持ち続けることが大切だと、この双六の名人は語っています。
かつて、西武ライオンズの森袛晶監督は九年間の就任中、八度のリーグ優勝と六度の日本一に導きました。監督は日本シリーズについて、「全勝するのではなく、三敗しても優勝はできると思って戦った」と語っています。つまり、負けない野球で最後に勝つことを意識していたのです。
勝つことにこだわることも大切ですが、最後に勝つことはさらに大切です。人生には負けることもあるのです。その時の気持の切り替えが大切なのであって、ここに極意があるのです。皆様、「勝つと思うな。負けまいと思え」と呪文のように唱えてみてください。逆転勝利への呪文ですよ。