怖いお話

カテゴリー

令和4年7月25日

 

真夏の夜にふさわしい、怖いお話を一つ。

今から25年ぐらい前のことですが、私が川崎大師(川崎市のお大師さま)へお参りした日のことです。帰りにタクシーに乗り、川崎駅に向かいました。ところが、その運転手さんがバックミラーでさかんに私の顔をのぞくのです。何か、ためらっているような様子でした。そこで私が、「どうしましたか?」と声をかけました。すると、「お客さんはお坊さんですか?」というので、「そうですよ」と答えました。さあ、それからです。

「信じてもらえないかも知れませんが」と前置きして、次のようなお話を始めました。

一年ほど前の、ある雨の日の夜のことだったそうです。その運転手さんが北鎌倉駅(神奈川県鎌倉市)の近くで、一人の女性客を乗せました。雨の日だというのに、なぜか傘をさしていなかったそうです。同じ鎌倉市の〝自宅〟まで行って欲しいという依頼でした。土地勘とちかんはあったので、だいたいの場所はわかりました。そして雨の夜道に気づかいながら、運転手さんはやがて依頼された家の前に車を到着させました。

すると、その女性客が、「ちょっとお待ちください。すぐ、家の人がお支払いしますから」といって、急いで家の中に入りました。ところが、いつになっても家の人など出て来ません。運転手さんはしかたなく、傘をさしてその家のブザーを押しました。すると、一人が玄関から出て来ました。

「すみません。タクシー代をいただきたいのですが」というと、その家の人が怪訝けげんな顔をするではありませんか。運転手さんは女性客の年齢や服装を含めて、しかじかの事情をお話しましたが、「そんな人はいませんし、家に入った人など誰もいません。何でしたら中を調べてください」というのです。

運転手さんはしかたなく車に戻りました。後ろを振り向くと、何と、女性客がいた座席が、しっとりと雨でぬれているではありませんか。運転手さんは全身に悪寒おかんが走り、身のふるえを覚えました。取り合えず、近くの交番に行って事のしだいを伝えるや、「君! 夢でも見たんだろう!」でした。

交番に駆けつけたところは、いささか滑稽こっけいですが、実はこのようなお話はほかにもあるのです。皆様、寝苦しい熱帯夜には、悪夢にご注意ください。

山路天酬密教私塾

詳しくはここをクリックタップ