蓮の花が開く音

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仏教

令和2年8月9日

 

蓮の花についての、別のお話です。よく、蓮の花が開く時、「ポン!」と音を立てると言いますが、皆様はどのように思うでしょうか。その音が聞きたいので、何時ごろに伺えばいいかなどと、問い合わせまで受けた経験もあります。中には立派なビデオカメラをセットし、夜明け前から待ち構えていた方もおりました。

正岡子規の俳句にも、「蓮開く音聞く人か朝まだき」とあります。石川啄木の詩にも、「靜けき朝に音たてて、白きはちすの花さきぬ」とあります。また題名は忘れましたが、川端康成の短編小説にも、上野(東京)の不忍池しのばずいけで音を立てて蓮が開く様子をを描いた作品がありました。文学の世界でも、蓮の花が音を立てて開くという〝言い伝え〟はおなじみのようです。ましてや、文士が描けば臨場感も漂いましょう。

蓮は日の出と共にゆっくりと開き、八時から九時ごろに満開になります。そして昼ごろから少しずつしぼみ、つぼみにもどります。これを三日間くり返し、四日目には蕾にもどれなかった花弁から散って行きます。そして中央のガクだけが残り、しだいに大きくなって蓮の実を残すのです。その蓮の実を、持ち帰ってもよいかとたずねる方もおりました。

結論を申し上げましょう。蓮はゆっくりと開くのであって、決して音など立てません。「ポン!」という音がするというのは、そのイメージなのです。蕾が開く様子から、そんなイメージが伝わったのです。蓮の花は、ワインのコルクをく時のようにはいきません。これは蓮の花を育てている住職や愛好家なら、誰でも知っていることです。

ただ、それでも蓮の花が開く音を、「確かに聞いた」という方がいるかも知れません。これはあくまでも私の仮説ですが、もしかしたら「異界の音」を聞いた可能性があります。つまり〝あの世の音〟をこの世で聞いたのかも知れないということです。そうでなければ、この言い伝えがかくも広まった理由がわかりません。文士までも、まるで自分が聞いたかのように描くでしょうか。たぶん、私のこの仮説は当たっていると思います。それは、仏さまがまさにご降臨こうりんし、お座りになるお知らせの音なのださえ思うからです。

私は蓮の花ばかりは、「この世のものとも思えません」といつも語っています。仏さまがお座りになる花です。霊験が顕現けんげんする花です。俗に「立てば芍薬しゃくやく、座れば牡丹ぼたん、歩く姿は百合ゆりの花」などと言いますが、芍薬も牡丹も百合も、みな美しい花です。この世の花です。しかし、蓮の花ばかりは品格が違います。あの世の花なのです。

蓮の花が開く時、「ポン!」という音などしないことは〈事実〉です。しかし、確かに聞いたという方の、その〈真実〉を認めるべきだと思うのです。あの世の花が、この世に開く音です。

山路天酬密教私塾

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