カテゴリー
挿花
令和元年11月19日
尼崎市の飯尾一渓さんが、「雑草いけばな」という新分野を提唱しました。
〝いけばな〟とはいっても流派の生け花ではありません。道端の野の花を石やガラス瓶、切り株や竹の皮といった身辺にあるものに、さりげなく挿すだけなのです。これがまた独特の魅力に富み、お店の花にはない格別な世界を作り出します。
飯尾さんははじめ、障害児教育のためにこれを創案しました。しかし、その美しさに引かれた人たちがしだいに集まり、花も買わず、花瓶も使わぬ「雑草いけばな・一渓会」が立ち上がりました。大阪・梅田のカルチャースクールや東京・お茶の水女子大などに教室を開き、会員は千人を超えたといいます。
もちろん、「雑草」という名の花はありません。どんな花にも学名があります。しかし、無用とされ、さげすまされた花がアレンジしだいで見違えるように甦る姿はお見事としかいいようがありません。「雑草は見向きもされません。誰の力も借りずに育って、人知れず散っていきます。その無心の姿を、無心のままに受け止めるんです」と、飯尾さんは語ります。
私は数年前、当時八十一歳の飯尾さんと電話でお話をしました。そして、「最後の一冊なんですが、あなたに差し上げましょう」と言って、カラー写真の本も送っていただきました。私の宝ものです。お元気でいらっしゃるでしょうか。