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人生
令和元年8月29日
宮本武蔵の人生指針である『独行道』の中に、「我、事において後悔をせず」という言葉があります。
二十代の頃、この言葉が気に入り、自分への訓戒として胸に秘めていました。つまり、何をするにもベストを尽くして悔いを残さない、後悔をしないことが大切だと思ったのです。ベストを尽くせば、自分にも納得ができます。「事において後悔をせず」とは、なるほど武蔵らしいとも思いました。
しかし、この言葉は年齢を重ねるにしたがい、しだいに脳裏から離れていったように思います。多少なりとも人生の辛苦をなめるにいたって、考え方も変わっていったのでしょう。
いったい、後悔のない人生など、本当にあるでしょうか。思い起こせば、私などは後悔することばかりです。あの時、どうしてもうひと押しできなかったのか。あの時、どうして会いに行かなかったのか等々、悔いが残ることにはキリがありません。でも、その悔いが残るからこそ、新たな励みになることも事実なのです。
〈悔い〉はまた〈悔しさ〉とも読みます。人は悔しさがあるからこそ、努力を続けられるのではないでしょうか。オリンピックのメダリストなどは、前回に敗れた悔しさをバネにしてこそ、地獄のような猛練習に耐えられるのです。私も悔しさをバネにできなくなったら、もう〝若さ〟はないのだと覚悟を決めています。
それにしても「我、事において後悔をせず」は、なつかしい言葉です。久しぶりに、二十代の自分をかいま見たような気分になりました。