あり得ないお話

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令和2年8月11日

 

これは四十年近くも前、私の友人の子供(三男)に起こった奇跡談きせきだんです。

その子は当時、四歳ほどだったと思います。友人の自宅は東京都文京区の、ある交差点から約30メートルほどの距離にありました。通りに面して車の往来も多いところでしたが、住民はけっこうスキを見て(横断歩道まで行かずに)道路を横切っていました。このことが裏目に出たのでしょう。

ある日、その子が自宅の反対側から道路を横切ろうとした時でした。交差点を左折したタクシーがスピードを出して迫って来ました。友人の妻、つまりその子の母親が自宅前で「あぶない!」と叫びましたが、すでに遅く、その子は急ブレーキを踏んだタクシーにはねられて倒れ、しかもタイヤの下敷きになったのです。一瞬のことでした。

母親もタクシーの運転手も、無我夢中でその子を抱き起こしました。うっすらと意識はありましたが、何が何だかわからなかったようです。着ていた赤いTシャツはボロボロで、胸にはタイヤのあとがはっきりと残っていました。もちろん救急車を呼び、すぐ病院に運びましたが、何と内臓に異常はなく、ほんのかすり傷で済みました。まず、あり得ないことです。

もちろん私は、その場に居合いあわせたわけではありません。しかし、この知らせを受けた時、これは世にもまれな奇跡だと思いました。そして後日、私はその子に会い、その時の状況を上手に聞き出しました。たぶん、何かに支えられて空中に浮いた感じとか、光のようなものを見たとか、そういう神秘体験をしたに違いないと思ったからです。

その時の答えを、私は忘れることができません。その子の答えは、「おじいちゃんやおばあちゃんが見えたよ」というものでした。私がさらに「どんなおじいちゃんやおばあちゃんだったの」と聞くと、「この人たち」と、仏壇の上を指さしました。その仏壇の上には、友人の祖父母からの遺影が飾られていたのです。私は驚くと同時に、十分にあり得ることだと確信したのでした。あり得ないお話が、あり得るお話へと変ったのです。

皆様はこのお話を信じるでしょうか。しかし、これは間違いのない実話です。私は友人に願い出て、ボロボロになり、胸にタイヤの跡までついた赤いTシャツを譲り受けました。そして折を見てそのTシャツを披露ひろうし、生々しいタイヤの跡を示しつつ、この奇跡談の法話をしました。何よりも、そのTシャツが事実を証明しています。そして、一段と声を大きくして、いつもの「大切なこと」をお話したのでした。

山路天酬密教私塾

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