令和2年10月29日
私もときどき、家出人や行方不明者のご祈願依頼を受けることがあります。
この場合、真言密教の行者は〈足止め法〉というご祈願法を用います。つまり、これ以上は先へ進まぬよう、足を止めるという意味です。これを修しますと、たいていは2~3日から一ヶ月程度で家にもどって来たり、電話連絡があったり、消息が判明したりします。もちろん長い時間を要する場合もありますが、必ず何らかの結果が得られるものなのです。
今から五カ月前のことでした。岩手県の方より、弟さんが一ヶ月前に家出をして、連絡がないというご相談がありました。しかも、自殺をする可能性すらあるというのです。警察への捜査願いを出しても、いっこうに行方がわからないというお話でした。私はさっそく足止め祈願の霊符を浄書して、お護摩でのご祈願に入りました。しかし、一ヶ月が過ぎ、二カ月が過ぎてもいっこうに行方はわかりませんでした。依頼者にも連絡をしましたが、何の音沙汰もないという返事だったのです。
私はこの家出人は、すでに亡くなっているだろうと判断しました。そうなると、あとは遺体が出るかどうかの問題です。そして、とうとう五か月が経過しました。つまり、家出をしてから六カ月です。私もしだいに不安と焦燥を覚えました。こういう状況が続くと、自分の祈願法に自信を失いかけるからです。どうしてなのかと、わからなくなることも確かです。
ところが今から一週間ほど前、依頼者より突然の電話が入り、「先生、弟の遺体が見つかりました」という連絡が入りました。車に乗ったまま、海に突っ込んで自殺していたという報告です。遺体はすでに白骨化していましたが、車体番号から判明したのでした。それにしても奇妙です。私はどのようにして発見されたのかを問いました。聞けば、トテラポット工事の最中に発見されたというのです。まさに奇跡的な霊験です。
私の長い行者生活の中でも、忘れ得ないお話です。その弟さんもすでに火葬もされ、骨壺に納められました。この後は、ねんごろな回向を修して行きたいと考えています。合掌