令和2年12月24日
今朝の目覚めに、突然に中学生時代の記憶が甦りました。
あれはたしか理科の授業中であったと思います。担当の先生が、「〈力〉という字が入る単語を、一人ずつ黒板に書いていってごらん」と言うのです。たぶん作用と反作用の課題から、こんなお話になったのだと思います。
生徒たちはめいめい、〈体力〉〈引力〉〈風力〉〈能力〉といった具合に、順に板書しました。後の生徒ほどなかなか思いつかず、困った顔をしていたものです。私は最後に近く、思案に暮れましたが、大きな字で〈魅力〉と書くや、一番の喝采を博しました。以来、〈魅力〉の二文字こそは、私の守護神のようにさえ思えたものでした。長らく忘れていましたが、どうやら久しぶりに守護神の呼び出しを受けたようです。
いったい、人間の魅力とは何でしょうか。トップの器であること、一芸に秀でていること、誠実であること、雄弁であることなど、思いつく要素はいくつかあります。そこで気になるのは、『呻吟語』という古典の言葉です。これは中国の明代末に呂新吾という方が著わしたものですが、私は安岡正篤先生の『呻吟語を読む』によってこの古典の存在を知りました。
その冒頭に「深沈厚重なるは、これ第一等の資質。磊落豪勇なるは、これ第二等の資質。聡明才弁なるは、これ第三の資質」とあります。つまり、落ち着いて思慮深いことが、人間の魅力として最高だと言っています。また、肝っ玉が太くて勇敢であることがこれに次ぐ魅力であり、意外にも、頭がよくて弁が立つは三番目の魅力だと言っています。
〈呻吟〉とは苦しみうめくことです。落ち着いて思慮深い人間になるには、苦しんでうめくほどのきびしい修養が必要だという意味なのでしょうか。自分の足りなさを指摘されたようで、とても気になったことを今でも覚えています。
落ち着いて思慮深い人間なら、どんな時でも冷静に判断し、他人からも信頼され、苦難や災難を最小限に止めることができるのです。なるほど、それが人間の魅力として最高であることは間違いありません。