令和2年7月29日
遺伝子の研究で知られる村上和夫博士が「心と遺伝子研究会」を立ち上げ、大変におもしろい実験をしました。それは、糖尿病の患者さんに協力していただき、笑いと血糖値の関係を調べようというユニークなものです。つまり、笑いによってどの遺伝子のスイッチがオンとなり、またオフとなるかがテーマです。
実験は二日間に分けて行われました。まず一日目は、糖尿病の患者さん25名の人たちに集まっていただき、糖尿業について大学教授の講義を聞くという試みでした。大学教授の講義ですから、おもしろさは期待できません。普段どおりの調子で40分の講義を聞いていただいた後、全員の血糖値を測りました。前もって一度測っておき、講義の後にまた測って、その差を比較したのです。すると、平均で123ミリも上がりました。退屈な講義だったのでしょうか、予想外の結果でした。
次に二日目です。前日と同じ時間に、同じように実験をしましたが、今度は吉本興業のB&Bという二人組による漫才を聞いていただきました。いざ漫才が始まる前、村上博士は二人に、「もしこの実験が成功したら、間違いなく糖尿病研究の歴史に残りますよ。笑いと血糖値の関係など、まだ誰もやっていませんからね」と耳打ちしました。つまり、二人に気合を入れたわけです。予想どおりB&Bは乗るに乗り、聞く方も笑うに笑いました。いやはや、爆笑の連続でした。
さあ、その結果です。前日、同じ時間に退屈な講義を聞いて123ミリも上がった血糖値が、今度は逆に平均で77ミリも下がっていました。「これはいったい、どういうことですか」と、患者さんたちの目の色が変ったのも無理はありません。この実験結果は、アメリカ糖尿病学会の論文として掲載されました。さらに、笑うだけで血糖値が下がるという衝撃的なニュースは、ロイター通信などから全世界に伝えられました。
科学者は一生のうちに何度かは、飛び上がるほどの喜びに打ち震えるようです。自分が世界で初めて発見した快挙なら、なおさらのことです。博士もこの時はうれしくて眠れず、体ががたがたと震え出したそうです。科学者の実験としては、アホみたい(!)に単純なものです。でも、そのアホみたいな発想こそ歴史を変えるのです。
博士はいろいろな芸人さんを呼び、毎年この実験をくり返していますが、いずれも血糖値が下がっています。そして、この研究が進めば、いずれは薬の代わりにお笑いDVDを出すような病院が出て来るかも知れないと語っています。「食事の前後にこのDVDを見てください」と、そんな病院が現われるかも知れません。
笑いは決して〝笑いごと〟ではないのです(笑)。笑いは健康を増進し、病気の治療にもなることを知りましょう。「笑い万薬の長」に間違いありません。