令和元年5月3日
お護摩のご祈願する場合、必ず願目が入ります。つまり、護摩札であれ護摩木であれ、ご祈願の主旨を宣言するわけです。
護摩札の場合は病気平癒や商売繁昌といったように、総体的な願目を書きます。護摩木の場合は、たとえば「〇〇病早期回復」「〇〇医師、〇〇手術成功」や「㈱〇〇雇用促進」「新商品〇〇売上向上」といったように、より具体的に書きます。これによって何を目的にご祈願をするのか、明確にして集中力を高めるわけです。
実は、人の心は意外に集中しません。本来の目的を失って右往左往することが多いのです。
中国にこんな昔話があります。ある兄弟が一頭のロバを引いて家に向かいました。すると、それを見た村人たちから、
「せっかくロバがいるのに、どうして乗らないのか」
と言われました。そこでまず兄がロバの背に乗り、弟がそれを引いて進みました。すると今度は、
「年下の弟にロバを引かせるとは、思いやりがないじゃないか」
と言われました。なるほどと思った兄は、弟をロバの背に乗せ、自分がそれを引いて進みました。すると今度は、
「年上の兄にロバを引かせるとは、礼儀知らずじゃないか」
と言われました。これにも一理あるので、二人でいっしょにロバの背に乗りました。すると今度は、
「小さいロバなのに、かわいそうじゃないか」
と言われました。兄弟はどうしていいかわからず、悩んだ末に二人でロバをかついで進みました。ところが、ロバの重みに耐えきれず転倒したため、兄弟もロバも大怪我をしました。そして、とうとうロバを死なせてしまったのでした。
どうしてこんな結果になったのか、もうおわかりでしょう。この兄弟はロバを大事に引いて帰るのか、兄に礼儀を尽くすのか、弟をいたわるのか、明確な目的がなかったからなのです。明確な目的を定めれば、このように右往左往することはなかったはずです。身に覚えはございませんか。肝に銘じねばなりませんよ。