五観の偈

令和2年7月20日

僧侶が寺院で食事をする時は、必ず「食事作法じきじさほう」をします。その作法の中で、最も中心になるのが「五観ごかんの偈げ」という五つの徳目です。つまり、その五つの徳目を観じ、食事をいただけることに感謝をしようということです。〈偈〉とは詩文というほどの意味にお考えください。

一つには功こうの多少たしょうを計はかり、かの来処らいしょを量はかる。

二つには己おのが徳行とくぎょうの全欠ぜんけつを付はかって供くに応おうず。

三つには心しんを防ふせぎ、過とがを離はなるることは貪等どんとうを宗しゅうとす。

四つには正まさに良薬りょうやくを事こととするは、形枯ぎょうこを療りょうぜんが為ためなり。

五つには成道じょうどうの為ための故ゆえに、今いまこの食じきを受うく。

まず、「功こうの多少を計はかり」とあります。たとえ一粒の米、一茎ひとくきの菜といえども、田畑を耕し、種をまき、実らせ、収穫し、かぎりない人々の手を経て自分の食しょく膳ぜんにあるのです。その功績は多少を問わず、どれほどの労苦があったかを知らねばなりません。そして「かの来処らいしょを知る」ことです。その由来を知って、感謝の念を捧げることです。

次に「己おのが徳行とくぎょうの全欠ぜんけつを付はかって」とは何でしょう。つまり、自分がはたして、この食を受けるに十分な徳があるか否いなかを考えなさいという意味です。そのことを反省して「供くに応おうず」、すなわち万人の供養を受けることです。

次に「心しんを防ぎ、過とがを離るることは」とは、心を清らかに保ち、誤った行いを避さけるということです。そのために「貪等どんとうを宗しゅうとす」るのです。つまり、仏教は貪とん（むさぼり）・瞋じん（いかり）・痴ち（おろか）を、〈三毒さんどく〉として特に戒いましめます。

次に「正まさに良薬りょうやくを事こととするは」とあります。本来、食事はお腹なかがすいたからいただくのではなく、身体を養い、健康を守るためのものです。これを「医食同いしょくどう源げん」といい、医術と食事は同じであるとします。食事が良薬であるから、「形枯ぎょうこを療りょうぜんが為ためなり」なのです。〈形枯〉とは身体が衰えること、生気がなくなることです。それを治療するのが、医食同源の食事であるとの自覚を持たねばなりません。

最後の「成道じょうどうの為ための故ゆえに、今この食じきを受く」は説明するまでもありません。仏道修行をまっとうするために、この食事をいただくという意味です。