カテゴリー
仏教
令和元年12月3日
中国の唐代にはすぐれた詩人がたくさんいました。白居易(白楽天)もその一人です。実はその白居易には、仏教説話で語り継がれる有名なお話があります。
頭脳明晰な白居易が杭州の高級官僚となった頃、道林和尚という知られた禅僧がいました。いつも樹の上で座禅をしていたので、「鳥窠禅師」などとも呼ばれていたようです。「鳥窠」とは鳥の巣のことで、樹の上での座禅姿がまるで巣のように見えたのでしょう。
白居易はその道林和尚をからかってやろうと思い立ち、その樹下にやって来ました。白居易は樹の上で座禅する道林を見て、「危ないではないか」と言うや、すかさず道林は「危ないのはおまえさんだ。煩悩の炎が燃え上がっておる」と答えました。一本とられた白居易は、それなら、とばかりに「では、仏教とはどのようなものか」と問います。道林は「悪いことをせずに、善いことすることだ」と答えます。白居易はシメたとばかりに、「そんなことなら三歳の子供でも知っているではないか」と巻き返しました。道林は最後に、「三歳の子供が知っていても、八十を超えた老人でさえ行うことはむずかしいのだよ」とトドメを指しました。白居易はその場で、深く礼拝をして去ったのでした。
この道林の逸話は「衆善奉行(もろもろの善をなして)諸悪莫作(もろもろの悪をなさないこと)」の教えとして、大切にされてきました。まことに、「言うは易く、行うは難し」です。人は道理は知っていても、なかなか実行することができません。一つ善いことをしても、二つも三っも悪いことをするのが常なのです。
真理はやさしく、わかりやすいもののはずです。そして、平凡な言葉であるはずです。いいお話ですね。