スジャーターの乳粥

令和元年12月11日

お釈迦しゃかさまは悟りを開く前、六年間の苦行くぎょうをしました。断食だんじきのため死の直前ともいえるほどに衰弱すいじゃくし、体は骨と皮ばかりになるほどでした。

その時、村の娘・スジャーターが通りがかり、持っていた乳粥にゅうがゆの供養を受けました。そして、体力を回復したお釈迦さまはネーランジャラー川で身を清め、瞑想めいそうに入って、ついに悟りを開きました。これは仏教のことを少しでも学んだ方なら、どなたでも知っているお話です。ただ、問題なのはその「乳粥」とは何であるかです。

学者の中には「乳粥」を「ヨーグルト」と訳す方もおりますが、それは違っています。実はインドのお粥かゆを「キール」と呼び、甘い味がするお祝いの料理なのです。甘いお粥というと、皆様は驚くでしょうか。しかし、お祝いに甘いものを出す習慣はよくあることで、日本でも東北や北海道の赤飯は甘く味付けします。また、甘い饅頭まんじゅうやぼた餅もち（おはぎ）などもその例でしょう。

ただ、その「キール」が、日本のインド料理店のメニューにはありません。私は僧侶の方にこのお話をする必要があった時、かなりの店に問い合わせました。しかし、東京銀座の「ナタラジ」という店でデザートとして出している以外、まったく皆無かいむでした（だいぶ前のことで、最近はもう少し増えているかも知れません）。

「キール」は牛乳で煮につめたお粥に砂糖を加えます（さらにお好みでナッツ類を加えます）。牛乳を煮つめた状態を「蘇そ」といい、これも仏教では大切なものです。ついでですが、私は三十代にかなりの荒行あらぎょうをしましたのでわかるのですが、断食して極端きょくたんに衰弱すいじゃくした時、ヨーグルトではさほどに体力はつきません。ところが、たとえ一杯でもお粥を食すれば、たちまちに回復します。

それだけに、スジャーターのお粥は甘く、また栄養価も高かったはずです。そして何より、彼女は一生を費やしても及ばぬほどの、大きな功徳を積んだのでした。