令和元年8月1日
私がずっと考えてきたことの一つに、「夫婦の顔はなぜ似ているのか」という課題があります。
「似たもの夫婦」という言い方がありますが、これはどちらかといえば性格に対してでしょう。私がお話したいのは、そのものズバリ、顔が似ているということです。もう少し詳しく申し上げるなら、なぜ顔の〝表情〟が似ているのかということなのです。
「そうかな?」「そんなバカな!」と思う方は、身辺の夫婦を観察してみてください。私の言うことに同感できるはずです。また、見ている内に、そう思えてくるから不思議です。若い夫婦はともかく、共に過ごした時間が長い夫婦ほど似てきます。もちろん当てはまらない夫婦もありますが、まずまずの確率でしょう。
当然のことですが、夫婦はもともと〝アカの他人〟です。仮に従兄弟どうしが夫婦になったとしても、直接に血のつながりはありません。それが、どうしてこんなことになるのでしょうか。
以前、何かのテレビCMに、「同じものを食べているからだよ」という会話が流れていました。夫婦は向かい合って同じ食事をしますし、食事が体を作るわけですから、なるほどとも思えます。しかし、それなら昔の集落のように、その土地のものばかり食べていた人たちはみな似たような顔になってしまいます。
いろいろ調べている中、ある心理学者の説に〈感情移入〉という言葉があり、「コレだ!」と得心しました。つまり、夫婦はお互いの感情を共有するということなのです。特に何十年も連れ添っていると、すぐに相手の感情を汲み取るようになり、それが顔を通じて伝達されるからなのです。そして、その伝達をそれぞれが共有して、顔の表情が似てくるのです。
この事実に照合すると、人は心を寄せるものの表情に感応するという見方ができましょう。好きな仏像や仏画を観てうっとりするうちに、その仏さまのような顔になるのです。これも本当ですし、仏像や仏画はそのためにも大切です。さらには身近な絵や音楽、花も香りも、実は皆様の人生そのものなのです。