令和2年4月17日
インドには〈四住期〉という考え方があります。これは人生を学生期・家住期・林住期・遊行期の四つに分け、それぞれの過ごし方を意味づけたものです。そして、その内容は次のように説明されています。
①学生期とは人間としての生きていく知恵を学ぶ時期をいいます。師について身心を鍛え、学習する時期で、現代でいえば二十代の前半、大学を卒業する頃までとなりましょう。
②家住期とは社会人として就職し、結婚し、子供を育て、財産を貯え、神仏への祭祀を怠らぬ時期をいいます。現代でいえば五十代、もしくは定年の頃までとなりましょう。
③林住期とは社会的義務や世俗的利益から解放され、家族からも離れて林の中に住み、修行と瞑想に励む時期をいいます。現代でいえば七十代頃までとなりましょう。
④遊行期とはこの世の執着を捨て、巡礼をしながら悟りと死に場所を求める最後の時期をいいます。現代の人生百年時代でいえば、まさに八十代以上となりましょう。
今日の生活からすれば、安易で世俗的な人生にショックを与えるようなお話です。特に家住期から林住期への移行は、一般人はもちろん、僧侶でも不可能に近いのではないでしょうか。日本では、いわゆる〝団塊世代〟がほぼ七十代となりましたが、家族から離れ、林の中に住むなど夢のまた夢です。禁欲的な解脱の生活は、現代人には遠い世界です。
しかし、考え方としてはよくわかります。人生それぞれの時期に、自分なりの境遇でこれを応用してはいかがでしょうか。若い頃は生意気で野心もあり、名誉も財産も求めたはずです。そして、その若さが永遠に続くような〝錯覚〟があったはずです。それでもある時、仏教の〈諸行無常〉や〈生老病死〉が脳裏をよぎり、経典の解説を読んだり巡礼を始めたりすることは十分にあり得ることです。自分を見つめるには、世間から一歩離れることが大切です。〈終活〉〈エンディングノート〉〈死の体験ツアー〉などが流行るのも、その証明でありましょう。
なお、作家・五木寛之さんの著書に『林住期』(幻冬舎文庫)があります。この本によって〈四住期〉という言葉が知られるようなりました。ご参考までに。