この世の月、あの世の月

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自然

令和7年10月7日

 

幼い頃、東の空に昇った月の隣りに、もう一つの淡い月の姿を見たことがありました。私は何だろうと思いつつも、誰に話すこともなく、記憶からもしだいに薄らいでいきました。

ところが三十代になって、ある山奥の断食道場に入門した折、二つの月を描いた絵が目につきました。その意味を道場主に問いましたところ、「片方はあの世(霊界)の月です。あの世にも、この世と同じように月があるのです」という答えでした。私はたちまち幼い頃の記憶がよみがえり、あ然としたものでした。後年、私が「双月子そうげつし」という雅号がごうを名のったのは、この体験からの由来です。

昨夜は陰暦八月十五日の〈中秋名月〉でした。そして今夜が天文上の満月で、一日のズレがあります。関東地方はいずれも曇り空で、残念ながら〈お月見〉が叶いません。

そこで、あの世の月に供える意味で、ススキとお団子(弟子僧の手作り)を飾りました(写真)。ススキの右上あたりに、あの世の月があるかも知れません。花器は平安時代の瓦製経筒がせいきょうづつで、写経を埋葬まいそうした容器です。

見えない月に供えるのもいきなものです。境内の地面と、桜並木と、曇り空がおりなす影絵に、お供えがえました。桜木の枝は重なり、暗夜の虚空に秋のレジェンドがそこにいます。

山路天酬密教私塾

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