友とするに悪き者

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令和元年5月8日

 

吉田兼好の『徒然草つれづれぐさ』は、私の長年の愛読書です。もし一冊の本を持って無人島に行くとしたら、私はたぶん『徒然草』を選ぶことでしょう。『論語』にも劣らぬ人生の智恵が、いたるところに見い出せるからです。

私が残念に思うのは、これが大学受験の古文として出題されることです。強制的に詰め込み式で勉強をさせられた高校生は、もう二度とこんな本を手にしません。でも、やがて歳月を経てこの本を読めば、いかに〝人生の極意〟に満ちたものであるかがわかるはずです。どなたでしたか「ヘタな人生論より『徒然草』」と言っていたのも、なるほどと思うのです。

一つご紹介をすれば、その百十七段に「友とするにわろき者」というくだりがあります。要するに、友としてはいけない七種の人物をあげています。現代語に訳してみますと、①気位の高い人、②理屈の多い若者、③病気をしたことのない壮健な人、④酒ぐせの悪い人、⑤勇猛にはやる人、⑥ウソをつく人、⑦強欲に走る人の七種です。

みな、それぞれに納得できるのですが、私が若い時には③の「病気をしたことのない壮健な人」だけは、どうしても理解できませんでした。でも、今の私なら、イヤというほどに納得ができます。なぜなら、病人の気持ちが理解できないからです。そして、その心の負担が理解できないからです。

よく、一度として病気ををしたことがないとか、医者にかかったことがないなどと言って自慢する人がいるでしょう。でも、人はいずれは何らかの病気を患い、やがて死を迎えるのです。その時、前もって病気の経験をしていれば、気構えも違ってくるはずです。自分の強さも弱さも心得ていれば、医者にも家族にも上手にお世話になれるのです。

病気の経験をしたことのない人は、このことがわかっていません。むしろ、こういう人が病気になると、今までの勢いなどとたんに失せ、情けない姿になっていく実例を私は知っています。

こんなことをお話していきますと、『徒然草』がますます好きになります。さすがですね。

 

山路天酬密教私塾

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