令和4年8月14日
私はかなりの本を所蔵し、また本を読まない日はありません。しかし、愛書趣味はありませんので、必要があればページを折り、赤線を引き、手垢で汚れることも厭いません。また、雑誌や新聞の切り抜きも、必要があれば出所と日付を入れ、スクラップで保管しています。そのスクラップこそは、書店では手に入らない格別な資料になるからです。
たとえば、古い新聞の切り抜きに、横井恵子さんという方の〈ひらめき〉のお話がありました。横井さんはZYXYZ(ジザイズ)という会社をおこし、ネーミングという新分野を開拓したことで知られています。つまり、会社やブランド品の名前をつけるという仕事です。なかなかユニークな分野ですね。
これまでに彼女が手がけた代表作には、「NTTドコモ」「au」「りそな銀行」「あいおい損保」「日興コーディアル証券」などがあり、その手腕のみごとさは、まさに驚くほかはありません。私の切り抜きは、彼女がその新聞の記者の質問に答えている内容でした。
「どういう時に名前がひらめきますか?」という質問に対し、彼女はこう答えています。
「私にはひらめきなんかありません。考えて考えて、しつこく、またしつこく作り上げていくのが私の流儀です」
私はこの記事を読んだ時、まるで全身が打ち震えるような感動を覚えました。「なるほど!」と思ったからです。つまり、私たちはひらめきというと、何かこう降って湧くような安易なイメージで受け取りやすいからです。もちろん、そういうことも絶対にないわけではありません。しかし、そうではないのです。
彼女がお話をしているように、考えて考えて、その努力が尽きた時、その先にひらめきがやって来るのです。私たちが日常に用いている前述の代表作でさえ、どれほどの努力の末に生れ得たかは、想像を絶します。努力なしに生れるものなど、何もありません。その努力が尽きて空を見上げた時、一息を入れた時、お風呂に入った時、まさに〝天の声〟がやって来るのです。発明王エジソンが言う、「99パーセントの汗と1パーセントの霊感」とはこれなのです。
私も努力を重ねてはいますが、思うようにいかない時は、この横井さんの言葉を思い出すよう心がけています。不思議なご加護は、待っているだけではやって来ません。ご加護も当然のご褒美として、努力の先にやって来ます。だから、努力は必ず報われます。報われないのは、努力が足らないというほかに何の理由もありません。皆様、いかが。